カフェベルガ・ボイス

障害者の社会参加を応援するカフェの広報紙。バックナンバーを掲載しています。

就労移行OB報告会

(こちらは2018年1月発行記事の紙面のアーカイブです)

 昨年10月、カフェベルガサポートオフィス就労移行支援事業のプログラムとして、OB報告会が開催された。

 このプログラムは、過去にカフェベルガで訓練を受け、その後社会で活躍しているOBの方々を招き、就労に向けての体験談を話してもらうことで、後輩に当たる現在の訓練生に、今後の就活の参考にしてもらう試みだ。

この日は、一年以上仕事をしている3名のOBがサポートオフィスを訪れ、それぞれの就労に向けた道のりや実際に就職してみての感触などを話してくれた。
 OBにはそれぞれ25分の持ち時間で話をしていただいた。まず簡単な自己紹介やベルガで参加した訓練、また、現在の仕事の内容などについての紹介があり、その後訓練生からの質疑応答の時間を設けた。訓練生は熱心に耳を傾け、勤務時間や具体的な業務内容、給与、余暇の過ごし方などについての質問をしていた。

 中でも「ベルガの訓練では何が役に立ちましたか」という質問には、全員がコミュニケーションに関することを挙げていた。訓練の場で様々な人と接したことが、貴重な経験となったとのことだ。
 また、「どうして障害者枠での雇用を選んだのですか?」という質問に対して、ベーカリーでの調理補助をしているOBは「働きやすさを重視しました」と答えていた。訓練生はこの先、障害者枠での雇用を目指すのか、一般での就職も視野に入れるのかという選択をすることになるが、障害者枠での就職であっても偏見などはなく、一般枠の人からも分け隔てなく接してもらっているという体験談が披露された。

 その他、介護の場で障害のある方の身体介助業務をしているOBから、「将来は沖縄に行って、障害のある人の支援をしたい」という話が出るなど、人生設計や将来の夢を語ってくれた場面もあった。

 一通り持ち時間が終わった後は、テーブルを囲んでの茶話会へ移行し、訓練生はOBと一緒にお茶やお菓子をつまみながら、改めて職場の話を聞き出したり、共通の趣味の話で交流を深めていた。

 今回、この報告会を企画したスタッフに話を聞いてみた。
「私自身の学生時代を振り返ると、就職活動を目の前にした時、学校に先輩を招いてお話を聞いたことで、『自分が働いている姿』をイメージしやすかったように感じました。
 そこで、ベルガの卒業生で、職場での経験を積んだ方が増えてきたこともあり、今回初めての開催となりました。
 OBの生の声を訓練生のみなさんも熱心に聞いておられ、就職というものを、ただ仕事をするということだけにとどまらない、『ライフスタイル』としてとらえられたのではないか、と感じています。
 今後も年に1、2回のペースで実施していきたいですね。今回平日ということで事務職の方にはお願いできなかったのですが、次回からは、いろいろな職種の話が聞けるように取り組んでいきたいと思います」

たけやぶつづり 第三回 それぞれの趣味(前編)「ゲームを通じて仲良くなった友達がいます」

 ようこそ。ここは竹やぶに建つ不思議な屋敷です。ここにはいろんな人が住んでいて、それぞれまったく違う特徴を持っています。
発達障害』と呼ばれる私たちはいったいどんなことを楽しく感じているのでしょうか? 今回から前後編として、カフェベルガの訓練生の皆さんに取材した、それぞれの趣味をご紹介します。皆さんと同じ趣味の方はいるでしょうか?


 カフェベルガでは、様々な『発達障害』の若者が訓練に取り組んでいます。前回はその中から、19歳でAD/HD(注意欠如/多動性障害)と診断されたAさんのお話を、小さい頃からご紹介しました。
 Aさんは診断を受けてから、支援をしてくれている施設の方や地域のクラブで、絵本制作に取り組んだり体を動かしたりしていました。今号のベルガ・ボイスの1面でお知らせしたチャレンジアートフェスティバルには自作のイラストを発表された方もいましたね。
 では、他の訓練生はどういった趣味を楽しんでいるのでしょうか? 実際に詳しく聞いてみました。

「幼い頃から、ゲームを楽しんでいました」
 と語ってくれたのは、19歳のAD/HDでアスペルガー症候群のBさんです。
「元々家族がゲームに親しんでいて、自然に自分も遊ぶようになりました。ドラクエなどのRPGを、みんなでわいわい攻略するのが好きです」
 ゲームには色々な遊び方があるのですが、中でもレベル上げやアイテム集めなどの『コンプ要素』と呼ばれる、こつこつとした楽しみ方に魅力を感じるそうです。また、ゲームを通じて人との交流もしているとか。
「とても有名なタイトルなので、世界中にたくさんファンがいるんですね。そんな人たちと、インターネットを介して盛り上がっています」
 なんとも若者らしい楽しみ方ですね。でもBさん、渋い趣味もお持ちだそうです。
「実は、入院して治療を受けた時、主治医からゲームを禁止されてしまったんです。それで、やっても大丈夫な趣味の中から、散歩を選んで始めました」
 それが今でも続いているそうです。どんなところが好きなのでしょうか。
「家の周りでも知らなかったことがあって、新しい発見ができるんですね。いつも家族とや一人で歩いているんですが、それを世間話の種にしたりもしています」
 ゲームと同様、誰かと話すことが好きなんですね。

 26歳のアニメ鑑賞を趣味とするCさんも、日本各地のアニメ友達と交流しているそうです。
「アニメは作画・脚本・キャラクターデザイン・背景設定・音楽・声優・演出、全てを網羅した総合芸術であるところが、楽しい、と感じています」
 大学生の頃から6年にわたり、ほぼ毎週楽しんでいるとのことです。
 私も経験がありますが、最近はインターネットも普及しているので、アニメやドラマを見ながらツイッターなどで『実況』して楽しむことができますよね。同じ感想を書き込んでいる人を見ると嬉しくなりますし、自分では思いつかなかった深い考察やトリビアを目にしてうなる、といった楽しみもあります。
 23歳の広汎性発達障害、また身体表現性障害であるDさんは、カードゲームを趣味としています。
「保育園ぐらいの頃、アニメを放映していたカードゲームを周りの子たちと始めたのが最初でした。その後小学校や中学校に上がっても、新しくできた友達と同じゲームをしていました。
 高校の時は、ゲームを通じて話をするようになった友達がいます。趣味以外の話もいろいろしますよ。漫画とか、別のゲームの話とか、学校の先生の面白かったエピソードとか……、だべっている感じですね」
 今でも、時々会っては遊んだりだべったりしているそうです。
「この遊びは、相手とコミュニケーションを取りながらできるところが楽しいです。カードゲームをやめちゃった人とも付き合いはあるし、趣味が仲良くなるきっかけになっていますね」
 最近はアニメを始め、バラエティ番組なんかでも取り上げられるようになったカードゲーム・ボードゲームですが、やはり同じテーブルに着いてわいわい言いながら時間を共有できるのは、他のことには代えがたい楽しみです。


 さて、今回は仲間と一緒に楽しんでいる趣味をお送りしました。皆さんと同じ趣味を持っている訓練生はいたでしょうか?
 次回、後編は、趣味を一人で楽しんでいる、と答えてくれた方へのインタビューを中心にお送りします。

カフェベルガ落語会

(こちらは2017年10月発行記事の紙面のアーカイブです)

即席の高座で落語を披露される柳家小んぶさん
 秋の気配の感じられる9月9日、カフェベルガで落語会が行われた。
 この会は今回で十七回目の開催で、毎回プロの落語家で二ツ目の、柳家緑君さん、柳家小んぶさん、柳家花いちさんの三人が東京からつくばに足を運び、生で落語を披露してくださっている。

 この三人とベルガとの縁は6年前、彼らが東京からつくばへ落語を聞かせる会場を探しにやって来たことが始まりだという。
 吉田代表は当時を振り返る。「中央公園の市民ギャラリーやカピオなどを見て回った三人が、ベルガに休憩に入られたんですよ」
 落語にはさほど詳しくなかった吉田代表だが、本物の落語家さんたちにあれこれと素朴な疑問をぶつけるうちに意気投合した。
「皆さんからそれぞれ、やかんの湯気を見て何年も『哲学』をして過ごしていたというエピソードや、高校を中退してこの道に入ったというお話などユニークな一面をうかがい、日頃ベルガで関わっている若者たちとも通じるような親しみを覚えました。
 こちらからも、ベルガの発達障害のある若者たちを支援するという取り組みをお話しし、そこから『いっそ、うちで落語会をやっては?』と提案しまして」
 その年の5月の連休、第一回の落語会を開催する運びになった。好評をいただき、その後も毎年三回程度のペースで定期的に行っている。
「何回目かからは、ベルガの訓練生にもポスターや当日張り出すバナーを作ってもらったり、設営を手伝ってもらったりなど参加していただくようになりました」
 開催のたびに、訓練の一環としてコンペを行うなどし、制作するポスターには落語家さんたち自身から頂いたコメントも掲載している。完成したものは店やFacebook掲示、それを見てやって来てくれるお客さんもいるという。
「中には十回以上お見えになっているお客様もいらして、落語家さんたちの年々上達されていくご様子や、回ごとのちょっとしたトークも楽しんでいらっしゃるようです」

 年内はこの後、年の瀬12月9日に開催される予定だ。開催が近くなれば店頭やFacebookにもポスターが張り出されるため、ぜひチェックして生の落語に間近で触れてほしい。

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左から、柳家花いちさん、柳家緑君さん、柳家小んぶさん

チャレンジアートフェスティバル2016

(こちらは2017年10月発行記事の紙面のアーカイブです)

 2017年3月、第十六回チャレンジアートフェスティバルinつくばが開催され、カフェベルガでも訓練生がアート作品を出展した。
 この催しは、障害のある方々が絵画や立体造形物を展示したり、ダンスや劇などのパフォーマンスを発表するものだ。
 カフェベルガでは今回、就労移行支援の一環として、訓練生が作品を制作、出展するという初めての取り組みを行った。
 出展したのはトリック写真、トリックアート、個人での作品の三種類。訓練生たち自身がどんな作品を出したいかということを話し合い、決定したものだ。

 スタッフに話を聞いた。
「トリック写真は一人一枚制作しました。
サポートオフィス近辺の通りや公園で、遠近などを活用したトリックをお互いに手伝いながら撮影しています。
 トリックアートは全員で一つの作品を仕上げましたが、これもどんな作品を作るのか何度も話し合いを重ね、資料探しも行いました」
 共同製作のトリックアートは、来場者が直接触れることが可能で、アートと一体となったシーンを撮影できる作品として仕上げた。
「また、個人としてイラストやポスターといった作品を出展した訓練生もいます」
 会期中には、出展した訓練生に就労継続支援B型の利用者を加え、つくば美術館への鑑賞にも赴いた。
 会場には絵画、工芸作品など多彩な作品が並び、中には筑波技術大学の学生による本格的な作品も。
自分たちが出展した作品を鑑賞してくれている人や、トリックアートの上で撮影をしてくれている人もいたとのことだ。

 スタッフは振り返る。
「自分たちで考えたアイディアを、膨大な時間をかけああでもない、こうでもないと意見を出し合って選び、形にしたことや、地域の画材店への買い出しなどにも自らで出向いたことは、一つの大きな体験となったのではないかと思います」
 訓練生からも次のような様々な感想が出された。
「トリック写真や美術館への出展など、難しかったがいい体験となった」
「大量の絵の具を使用し、だんだんと形になっていく達成感があった」
「他の団体の多種多様な作品に刺激を受けた」
「自分たちも研究を重ね、よりレベルの高いトリック写真に挑戦したい」
「〆切感などタイムマネジメントを養いたい」
「ひとつひとつを丁寧に凝って作りたい」
 カフェベルガでは、来年の出展も検討しているという。

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▲共同制作のトリックアート。来場者のための案内がある
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▲訓練生が出展したトリック写真

たけやぶつづり 第二回 Aさんの場合 「その時、話したくなったんです」

 ようこそ。私は竹やぶに建つ不思議な屋敷の住人です。ここにはいろんな人が住んでいて、それぞれまったく違う特徴を持っています。
発達障害」と呼ばれる私たちはいったいどんなことを感じ、考えて生きているのでしょうか? 今回は、カフェベルガの訓練生の一人からお話を聞くことができました。

「思っていることを、うまく伝えることができない子供時代でした。
 内心では怒っていたり、いろいろ感じたり考えたりしているのに、まるで察してもらえず、考えなしに行動している単純な人間だと思われている、という」

 Aさんは、21歳の男性です。カフェベルガでは、就職を目指して訓練に取り組んでいます。

 小さな頃は、地域で様々な年齢の子に混じってサッカーやケイドロなどの外遊びをする、普通の男の子でした。
「ただ、落とし物が多かったり指示がぬけやすかったり、連絡帳を書いても自分でも解読できないものになってしまったりするなどの苦労があり、あんまりほめられない学校生活ではありました」
 そんな中でも、小学校二、三年生の頃、詩を書いてほめられたことが記憶に残っているそうです。

 苦労し始めたのは、五年生ぐらいの頃から。周囲と『ずれ』が出るようになり、他の人が想像もしないようなところでつまずいていました。
 たとえば、テストの時。解答欄の大きさで答えの長さを推測するのはやる人も多いと思います。ですが、
「自分の考えた答えと欄の大きさが合わなくて何も書けず、白紙で提出してしまったり。結局その時は、思いついたもので正解だったんですが(笑)」
 クラスの子にはからかわれたりすることも。それでも友達もおり、明るい子だったのですが、中学、高校と上がるにつれ、『ずれ』は大きくなっていきました。



「ノートは取っていたのですが、授業が頭に入っていかず、成績はどんどん悪くなっていきました。体育でダンスをやっても、自分ではちゃんと踊っているつもりでいるのに何かが違う、と言われたりします」
 中高生は、ちょっとでもずれていると居場所がなくなっていく時期でもあります。
 何も考えていない人間だと思われて軽んじられているうち、Aさんの明るかった雰囲気もしだいに暗くなっていき、そのため周囲との関わりもさらにまずくなっていくという悪循環にすっかり陥ることに。
 話を聞いているだけでも苦しい状況に思えます。
「でも、家族にはばれないようにしたかったんです」
 一番近しいはずの人たちにも、相談して頼ることはできませんでした。
「話したくなかったし、話したとしても、誰にも自分の考えていることはわからないと思っていて。ひたすら一人で自己嫌悪して、世界一不幸だ、という今にして思えば被害妄想の中にいました」 

 そのしんどさを隠しているのが限界になったのは、専門学校に進学してからのことでした。
「中高とはまったく違う環境でも浮いてしまい、気味悪がられていたように思います」

 紆余曲折の末、専門学校をやめて一年ほど引きこもり、精神科の門を叩きました。
「その時、話したくなったんです」
 Aさんは初めて、自分の感じていることや、今までの苦労、違和感を人に打ち明けました。
 そこで「発達障害の傾向があるのでは」と指摘されます。
 検査の結果、AD/HDと診断されました。
 AD/HD(注意欠如/多動性障害)は発達障害の一つで、『不注意』と『多動・衝動性』を主な特徴とします。子供の頃から現れるもので、活動に集中しづらい、物をなくしやすいという症状が知られており、本人の頑張りだけでは改善が困難です。そのため多くの人は、大人から叱られたり、対人関係でつまずいたりすることで、さらに自信をなくしていきます。

「納得しましたし、安心しました。もちろん『あなたは障害者だ』と言われて少し傷付きはしたのですが、これまでのことは、しょうがなかったんだな、って」
 19歳のことでした。違和感を覚えるようになってから、およそ十年が経っていました。

 それからしばらくは、厚労省が設置している『地域若者サポートステーション』の相談窓口で週一回、話を聞いてもらうことに。
「聞いてほしかったんです。自分の話を聞いて、理解してくれようとしている、という実感を持つことができました」
 そのうちに就職について相談し、カフェベルガを紹介されます。

 カフェベルガの訓練では、学生時代にぶつかっていたような大変さは感じないと言います。
「パソコンでの資料作成やプレゼンテーションなど、興味を持てる内容で、言われたことが入ってくるし、自分の中に蓄積されていますね」
 今では、「思い詰めていた時期はやばかったな」と自ら思えるようになっているそうです。

 余暇は地域のクラブ活動で体を動かしたり、ネット対戦ゲームで遠くの人と交流したりも。
「お世話になっている施設の方が『作りたい』と言っていたことから、絵本製作にチャレンジすることにもなりました」

 そんなAさんには今、就きたい仕事があります。
「相談を受ける仕事がやりたいんです。
 人の話を聞きたくて」
『相談支援』という、障害のある人が課題の解決や適切なサービス利用をするために、相談に乗り、計画を立ててくれる事業があります。Aさんが利用している施設が、職場としてもとてもよい環境なのだそうです。
「担当じゃない方も気さくに話しかけてくれるんです。いいなあ、って」


    ◆


 カフェベルガでは、こういった、就職を目指すものの一般的なルートから外れてしまった若者に、まず『就職』というものを具体的にイメージしてもらうことに力を入れています。

「自分の思っていることの表現、そして、人の話を理解すること。これらは就職の基本です」
 訓練スタッフはそう語ります。
「そしてさらには、自分がどういった仕事に向いているのか、やりたい仕事が何なのかということを見つけてもらうため、さまざまな種類の訓練や体験の機会を設けています」

 また、面談で話をしてもらうことで、そういった気付きを助けたり、一緒に振り返って探り出すお手伝いもしています。

「Aさんの場合は希望する職業がありますが、そうであってもなくても、ここでの訓練を通していろいろな可能性に気付き、その中から自分を生かす道を選び取ってほしいと願っています」